会報54号(2011年7月)掲載の著書紹介です。
著書紹介におきましては、著者による自薦、または同窓生による推薦の言葉をお待ちしております。

上田滋(18 期)

ドストエフスキィ「罪と罰」論

近代文藝社 本体2000 円+税 2010/5

 故・小林秀雄氏は、日本人にはドストエフスキィを理解受容することが難しいと云う。風雪吹きすさぶシベリヤの牢獄に生きた作家と桜かおる温暖な地に暮らす一般日本人とは接点に欠けると私も思う。
 しかし、日本では間欠的なドストエフスキィ・ブームというものが起きる。小林氏はそれを、人々が作品に架空な甘い夢を託して自己催眠しているだけだとする。その夢から冷厳な現実に目ざめさせるのが私の役目だろうか。

近藤節也(22 期)

覚書「刹那と永遠」

文藝春秋 本体1800 円+税 2010/6

 人間がながく固執してきた自由意志と愛と道徳や、美しい情熱を斥けて、世界にやがて来るものはなにか。眩い逆光の未来に人間を待ち受けるものはなにか。(あとがきより)「宇宙論史」ほか「地球生命論」「人間の歴史」「神の歴史」「清教徒の国と逆光の未来」(目次より)

坂戸直行(22 期)

明日香を動かした男

芦書房 本体1500 円+税 2010/08

 様々な新解釈によって、正史ではどこか不自然だった古代史が、はじめて明快で筋の通った展開を見せる。なぜ倭国は滅んだ百済のために唐に戦いを挑んだのか、日本書紀編纂の舞台裏。「倭国」から「日本」への正史を超えた真実。

犬塚孝明(37 期)

海国日本の明治維新―異国船をめぐる100 年の攻防―

新人物往来社 1,995 円(税込)  2011/6

 本書は18 世紀末に成立した「海防」という軍事的な国家防衛意識が、変転する国際的環境のなかで、徐々にその姿、形を変えつつ、貿易立国意識へと昇華していく課程を、幕末知識人たちの国際認識を通して描こうとしたものである。旧著の『明治維新対外関係史研究』がベースとなっている。(あとがきより) 月刊歴史読本2009 年6 月号〜 2011 年5 月号の連載を加筆修正して単行本化したものです。

森本和男(47 期)

文化財の社会史―近現代史と伝統文化の変遷―

彩流社 本体8000 円+税 2010/6

 本を出版しました。これで単著は2冊目です。今度の本は800 頁の大作となりました。私は千葉県で発掘調査の仕事に長年従事していて、出版した本も文化財に関連しています。前の本は遺跡や発掘に関して、おもに戦後の高度経済成長以後の状況を取り扱いました。今回の本は、明治維新以後の宝物や古社寺、史跡などを題材にして、国家によって創作される「伝統文化」についてまとめました。
 古くさい古社寺や史跡を題材としていますが、内容は近現代史そのものです。このような歴史感覚を身につけ本を執筆できたのは、武蔵中高校で日本史の教鞭を取っておられた城谷稔先生のおかげです。私は成績が悪かったので、武蔵での楽しい思い出はあまりありません。けれども、城谷先生には大変可愛がっていただき、いつも勇気づけていただいたことを今でも深く感謝しています。

高見澤 磨(共著)(51 期)

中国にとって法とは何か―統治の道具から市民の権利へ―

岩波書店 本体2600 円+税 2010/09

 中国は「人治」の国で、「法治」は軽んじられているというのは本当なのか? 西洋法の衝撃やソ連法の影響を受けながら、中国の国内法はどのように整備されてきたのでしょうか。中国が獲得してきた法体系を切り口として、中国の歴史や社会の特徴を浮かび上がらせながら、統治の道具から市民の権利へと移りゆく法観念のゆくえに注目します。

山中信彦 (53 期)

「まじめ」な日本の私―ことばにゆれる心と社会―

明石書店 本体2200 円+税 2011/4

「○○さんはまじめだね」のように、誰かのことを評するときには必ずと言ってもよいくらい出て来る「まじめ」ということばは、最近、特に若者の間で評判が悪いようだ。「majime」と言われても「不majime」と言われても面白くないのはなぜか、という謎を解くためには、まず「真面目」「まじめ」「マジメ」の区別が必要だ。かつて流行したmajime 論を集大成したうえで、裁判から結婚まで日本社会のさまざまな現象を「majime」をキーワードに面白おかしく、しかし大真面目に論じる。真面目な人には痛快だがマジメな人には耳が痛い一冊。

緒方 篤(原案・脚本)(54 期)

脇役物語

竹書房 700 円(税込) 2010/10

 2010 年10 月23 日公開開始の映画「脇役物語」のノベライズ版です。映画の原案・脚本・監督:緒方篤、主演:益岡徹・永作博美。

加藤 勤(64 期)

中国語を1週間でいとも簡単に話せるようになる本

明日香出版社 1575 円(税込) 2010/12

 本業は書店経営なので、中国語はまったくアマチュアなのですが、学習者の視点から「通じる!」中国語を話す最短距離をご紹介することを目指しました。

図書紹介

渡辺憲司(立教新座中学校・高等学校校長/元武蔵高等学校教諭)

時に海を見よ―これからの日本を生きる君に贈る―

双葉社 1,260 円(税込) 2011/6

 1972 年から1978 年まで国語科で古文を教えていらっしゃった渡辺憲司先生の新刊です。渡辺憲司先生は現在、立教新座中学校高等学校の校長先生で、震災後に立教新座校のホームページに掲載された卒業生へのメッセージが「心を揺さぶる」とツイッター等インターネットを通して大きな反響を呼んで全国に広まり、話題の人となりました。紹介する私は高1の時、先生の「徒然草」を習った学年で、この3月、武蔵同窓同期のメーリングリストから件の卒業メッセージを知り、「これを基に本を作りたい」と思って渡辺先生に三十何年ぶりかでお会いし、執筆していただいたというわけです。渡辺先生というより、武蔵では生徒からもっぱらベケンジ、ベケンと呼ばれて親しまれていました。本書『時に海を見よ』は、広まったメッセージ「卒業式を中止した立教新座高校三年生諸君へ」を収録し、それを継いで新たに、これからの日本を生きる若者たちへの「贈る言葉」として書き下ろした本です。武蔵での教師生活の断片も入っています。(池永昌靖 49 期)